その日暮らしの記
ぼやき日記

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キャビン

 配給会社のロゴマークが出た後(ライオンズゲート一社だけというのもかなり新鮮)、中世の残酷画のような絵をなめるようにカメラが映していくと、今度はどこかの施設でだべっている二人の中年職員たちの会話の場面となる。彼らは何かの「研究」をしているようで、しかもそれは全世界規模のものらしい。と、突如としてタイトルが表示され、どこかの学生街のアパートで着替え途中の女子大生が登場。彼女はこれから男友達を交えて、田舎の「キャビン」で週末を過ごすようなのだが……。
 映画秘宝などで話題になっていたホラー映画をやっとこ鑑賞。おお、これは確かに素晴らしい。上記に挙げた冒頭の場面からもわかるように、断片的に語られる情報、唐突な場面展開、意味がありそうでなさそうなガジェットの群れが、今後の展開に対する期待と不安を大いにあおっていく。そしてそれは、「予想不可能」を売りにしているとおり、まさしく空前絶後・阿鼻叫喚・驚天動地の怒涛の展開を見せていくのである。
 こちとらのような、うがったホラーマニア・ミステリマニアからすると、本編が進んでいくと「どんでん返し」についてもある程度の予想はつくようになっていくのだが、この映画の凄い所は、そこからもうひとひねりというか、再構築というか、さらにプラスアルファを加味しているその「センス」良さだろう。作っている側も「わかって」やっているのは明らかだし、過去のホラー映画に対する愛情とリスペクト(日本の「怪談」映画に対しても!)の深さも、ところどころで十二分に感じさせる。
 惜しむらくは観客が私を含めて数人しかいなかったことぐらいか(笑)。おかげでラスト近くの「アレ」などを共感しあえる雰囲気が、全く味わえなかったし(しかし「アレ」はあちらのホラー・SFにおける定番の「ネタ」になってしまっているのか?)
 でも大きいスクリーンで(できれば大勢で)見てほしい、傑作。

麻山事件

 ソビエト軍の侵攻と前後して、旧満州の開拓団に参加していた日本人たちを襲った数奇な運命。その事実は終戦後、徐々に明らかになっていったのだが、その中にあまりもセンセーショナルに取り上げられた「悲劇」があった。自ら死を選んだ開拓団の面々は、婦女子や老人ばかりということもあり、薬物による死がほとんどであったが、唯一「麻山」での自決は、わずかに残った男子団員の「銃剣」により、四百人以上の婦女子が「介錯」されたというのである。同じく満州からの引揚者であり、開拓団の悲劇を追いかけていた著者は、ひょんなことからこの「事件」の存在を知り、わずかに残った生存者たちと知己を得るに至って、「事件」そのものを「正確」に記録していくことになるのだが……というノンフィクション。
 夢と理想を胸に抱きながら開拓団に参加し、戦争が敗戦濃厚になると早々に軍や国家に見捨てられ、ぼろぼろに逃走に逃走を重ねた結果、その手で家族を殺めざるを得ず、それでいて自分は死ぬこともできず、重い十字架を背負ったまま長い後半生を生きなければならなくなった男たち。重い口を閉ざした彼らの証言を、著者は時間をかけて少しずつ引き出していく。冒頭から非常に重苦しく、なかなか読み進むことができなかった(特に「その日」の出来事はやはり衝撃的だった)。だが時には自分の体験とオーバーラップさせながら、丹念に「事件」を追いかけていく著者の作風と描写力は素晴らしく、大いに見せられた。
 注目したいのは、農民子弟(次男や三男坊たち)の救済を建前に移民を組織(政治的に暗躍)した人物の戦後の手のひら返しの酷さ(詳細を書くのも不快)と、同じ悲劇を体験した「はず」の生存者たちの証言が余りにも異なっている(彼ら間で厳しいやりとりなどもあったみたいである)あたり。ネット界隈では(実はリアルな知人にいたりもして困ってしまうのだけど)、憲法改正とか特定の国に対する弾圧とか、いわゆる好戦的な思想や主張の書き込みが目立つけれども、個人的にこれらにどうしても引っ掛かりを感じてしまうのは、ここらへん(国家の「裏切り」行為と人の「記憶」の不確かさ)にあるんだろうなあと、改めて思いましたです。「弱者」ばかりが「責」を負わねばならぬ世界なんて、変えていかねばならないと、強く感じましたです。名著。



文庫 麻山事件 満州の野に婦女子四百余名自決す (草思社文庫)文庫 麻山事件 満州の野に婦女子四百余名自決す (草思社文庫)
(2011/12/02)
中村 雪子

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メンヘラちゃん

 実際に中学時代不登校であった作者が、自身の体験をもとに描いたWebコミックを書籍化したもの(ほぼ全面的に書き直されたたらしいが)。Web時代からかなり話題になっていて、ずっと読んでみたかったのだが、思い立って購入。
 主まじめで素直で責任感の強い「けんこう」くん、うつ病を抱えていていつも死ぬことばかり考えている「メンヘラ」ちゃん、明るい性格だが体が弱く過激なBLオタクである「病弱」ちゃん。主要登場人物はこの三人で、学校を休みがちな女子二人のために、「けんこう」くんが学校の宿題やプリントを届けに行くというシチュエーションで話は進む。初期は四コマ形式で、鬱ネタ、オタクネタを振りまく女子二人に「けんこう」くんが振り回されるという展開が多かったが、途中でストーリー形式のエピソードが挿入されることによって、彼らの心の「闇」の部分がクローズアップされていく。
 面白いのは女子二人だけでなく、(精神的にも肉体的にも)病んでいない(ように見える)「けんこう」くん側の悩みもしっかりと描かれていること。自分が「男」であること、彼女らの「友達」であることで、自分に何ができるか、どんなふうに彼女たちを支えてあげることができるか、といった「前向き」な悩みだけでなく、たとえば「メンヘラ」ちゃんが元気になったら、普通に誰とも付き合えるようになったら、自分は「いらない」子になるのではないという不安と心の変化が、丹念に綴られている(これは「メンヘラ」ちゃん、「病弱」ちゃんの立場からも描かれている)。こういった思春期特有の悩みを、真正面から取り組もうという姿勢が、この作品の高い評価にもつながっていった、一つの要因なのだと思う。
 下巻以降は彼らの中学卒業(義務教育からの「卒業」が意味することは明白である)と、「けんこう」くん「メンヘラ」ちゃんの淡い恋模様のエピソードが主流となる。そこらへんの展開やまとめ方などが弱く、駆け足気味になってしまったのは少し残念(もう一巻分ぐらいほしかった)だが、(作者を含めた)彼らが、彼らなりに導き出した結論(大人の介入は一切なし)には、素直にエールを送りたいと思う。そして、前途ある未来についても。傑作。


メンヘラちゃん (上)メンヘラちゃん (上)
(2012/10/17)
琴葉とこ

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メンヘラちゃん (下)メンヘラちゃん (下)
(2012/10/17)
琴葉とこ

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ミスミソウ 完全版

 長らく絶版になっていた「『黒』押切」の代表作が、完全版として待望の復刊。マケプレなどで集めなおそうかと思っていたところだったので、速攻で購入。
 家族思い・妹思いの優しい少女が、閉鎖的な田舎町に引っ越してきてから、クラスメイト達から容赦のない酷いいじめを受けるようになる。彼らの行為は徐々にエスカレートし、ついには超えてないけない一線を越え、少女は天涯孤独の身に。それでも感情を押し殺し、じっと耐え続けていた彼女だったが、やがて静かに、そして突如として、己の狂気を爆発させ……というストーリー。
 いやはや、噂以上のなんともすごい。まずはなんといっても、その独特のタッチと「絵」のインパクトの高さに圧倒されてしまう。少女がついに武器を手に取る見開き画面の美しさ。ところどころに挿入される、容赦ないスプラッタ描写と登場人物たちの狂気の表情。まさしく「漫画」でなければ表現しえないものばかりだ。
 そしてストレートな復讐譚と思わせて、下巻において意外な登場人物の意外な正体が判明し、善悪が入り乱れる予想外の展開。ここらへんは、まったく予備知識をいれていなかったので、思わずうなった。小道具や何気ない描写が、効果的な伏線となってこの巻で結実するさまは、まさしく「フィクション」の醍醐味だろう。
 さらに加えるなら、あくまで「物語」が子供の世界の中で発生して、かつその中で完結するあたりも、個人的には好み(大人はホントに無能で役立たずばかりである)。この確固たる世界観とゆるぎない視点の調和のおかげで、悲しく残酷な結末を迎えながらも、なんとも爽やかな読後感を感じずにはいられない。ただ皆を不幸にさせる、皆を嫌な気分にさせる、昨今のホラーとは、完全に一線を画している。
 しばらくはこの余韻に浸っていたい気分。期待以上の素晴らしさでした。傑作。



ミスミソウ 完全版(上) (アクションコミックス)ミスミソウ 完全版(上) (アクションコミックス)
(2013/03/12)
押切 蓮介

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ミスミソウ 完全版(下) (アクションコミックス)ミスミソウ 完全版(下) (アクションコミックス)
(2013/03/12)
押切 蓮介

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ジャンゴ 繋がれざる者

 やっと仕事も落ち着き、温泉行ったり古本屋めぐりをする余裕も出てきた今日この頃。映画の方もたまったDVDだけでなく、ちゃんと映画館でみたいなと欲求が高まってきたところに、今住んでいるところの近くに映画館ができたとの知らせが。そこの会員になって割引券を使って、さっそく観に行きましたのことよ。
 「イングロリアス・バスターズ」に続く、タランティーノによる「歴史改変」復讐ムービー。前回はユダヤ人だったが、今回は黒人が主人公。あるお尋ね者の顔を知る者として、ひょんなことからドイツ人賞金稼ぎに拾われた主人公。銃の腕前と度胸だけでなく、実は別の奴隷商人に売られていった妻を必ず取り戻すという、強い「意志」を彼から感じ取った賞金稼ぎは、計らずも協力を申し出ることになる。そしてその奴隷商人が、黒人同士の闘い(殺し合い)の興業を道楽としている男であることを知って、一芝居打つことにするのだが……というストーリー。冒頭から繰り返される独特のユーモアと掛け合い(C・ヴァルツ最高!)、さらに容赦ない息をつかせぬバイオレンス描写、マカロニ・ウエスタンはもちろん、ブラック・ムービーやその他のエクスプロイテーション映画(Bムービー)における大小のネタを、縦横無尽に織り交ぜながら、3時間近くを少しも飽きさせることなく、大いに楽しませてくれた。
 近年のタランティーノ映画としては、ストーリーや展開などもオーソドックスでわかりやすい反面、悪役(ディカプリオやS・L・ジャクソン)の描き方(退場のさせ方)や、受け身に回わってばかりの妻(K・ワシントン)の弱さ(P・グリアや前作のM・ロランの大活躍ぶりを見ているのでなおさら)などが気になるところではあったけれども、タランティーノはだれにもまねすることのできない、唯一無比の最強の映画作家であることを、さらに印象付けた素晴らしい作品だった。しみじみ。

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